Six Tires, No Plan


Michael Rosenbaum

Discount Tire創業者Bruce Halleの伝記。Black Fridayから半年余りの1930年5月27日に生まれ、貧しいながらも朝鮮戦争を挟んで大学に学び、在学中に得た最初の職は車のセールスマンでした。持ち前のパーソナリティで家を買い、大学卒業と同時に次なるチャレンジを求め保険のセールスを始めます。こちらはあまり上手くいかず、二人目の娘が誕生したのをきっかけに、車用品をガソリンスタンドやディーラーに卸すビジネスを友人と二人で開始。今回もわずか一年で店をたたむこととなり、残った資産を折半し、Bruceが得たのは6本の再生タイヤとフィルター等が入った木箱でした。
年明けの1960年1月よりDiscount Tireという名前でタイヤに特化したビジネスを開始。ビジネスは至ってシンプルで、タイヤの販売。ただし夏タイヤ⇔冬タイヤの交換を無料で行うなどして、口コミで顧客をつかんでいきます。
1963年には2号店をオープンするに至りますが、Bruceが重要視したのはまず従業員の満足度でした。働く従業員が幸せでなければ、顧客も幸せにはなれない。Bruceは別にタイヤが好きな訳ではありませんでした。顧客もタイヤは仕方なしに買うもの。必要悪とも言えるそのタイヤを安く売り、経済的に困窮した人には無料で与えることを通して、happinessを顧客に与えるのがDiscount Tireのビジネスの根幹となりました。従業員には店の近くに家が買えるくらいの賃金を払い、逆に地価が高すぎる地域には敢えて進出しませんでした。
この基本姿勢はDiscount Tireが23州800店舗にまで成長してもブレることなく貫かれています(注:カリフォルニアでは類似の店名があったため、America’s Tireとなった)。
資本主義経済においてビジネスは拡大するのが最優先と考えがちですが、Discount Tireは敢えてそれをせず、全米51州制覇は目標でなく需要があり従業員が幸福に働き家を買える地域でビジネスを展開していくという、ある意味ニッチとも言える戦略をとっています。
人件費削減のため正規従業員を減らし、臨時や派遣にしわ寄せをする日本とは対照的ではないでしょうか?家電大手を始めとして人員削減のニュースが毎日のように聞かれるなかで、happyに働いている社員はどのくらいいるのでしょうか?
話が逸れますが、2005年末に長崎へ旅行した時立ち寄った、亀山社中で聞いたガイドさんの話を思い出しました。失礼ながらお名前を聞きそびれてしまいましたが、70代半ばの方でゼロ戦パイロットになるべく訓練中に終戦を迎えた方でした。ゼロ戦は軽量なため空中での動きは良いが、機体は薄く銃弾は容易に貫通してしまう。それに対し、グラマンは分厚い機体でちょっとやそっとの銃弾では貫通しないと。飛行性能と引き換えに貴重なパイロットの命を“消費”してしまって勝てるのか?
変化は必然であるにもかかわらず、旧態依然としたシステムを維持するがために従業員に負担を押し付ける企業に明るい未来はあるのでしょうか?