STUPID TO THE LAST DROP


William Marsden
カナダのオイルサンドについて。著者はジャーナリストだけあって、センセーショナルな構成となっています。
カナダ西部では古くから原油があることが知られていましたが、オイルサンドの名の通り粘性の高い原油が砂に付着した状態のため採掘にコストがかかり、細々と採掘されるに過ぎませんでした。
1950年代中頃、世界は石油ブームに沸いており、オイルサンドから原油を効率的に採取する方法として何と原爆の利用が計画されます。9キロトン(広島に落とされた”Little Boy”は13キロトン)の原爆を地下600mで爆発させ、その熱により原油を流動化して採取するという常軌を逸した計画でした。結局この計画は実施されませんでしたが、米海軍により1973年にカナダで特許出願されています(CA 933087 “Nuclear Explosive Method for Stimulating Hydrocarbon Production from Petroliferous Formations [oil sands]”)。
出てくる原油放射能は残留しないのか?これがガソリンとなって車に給油され北米中に放射能をばら撒くことにならないのか?疑問は尽きませんが、ニューメキシコ州等で原爆/水爆実験を繰り返してきたアメリカにしてみれば、ほとんど人の住まないカナダのアルバータ州北部で原爆を爆発させることへの抵抗感など微塵も無かったのかも知れません。
こんな感じで衝撃的なPART 1に始まり、PART 2では原油を取り巻く政治/経済、STEP 3では原油天然ガス採掘に反対する農場主への嫌がらせなど、読むほどに引き込まれていきます。
オイルサンドはその後2000年代に入り、米国の対イラク戦争を境に再び価値が再評価され、露天掘りで地表に大穴を開けながら採掘が進んでいます。その環境破壊の様子は2009年のナショナルジオグラフィック3月号で取り上げられ、注目が集まりました。被爆は免れたものの、アルバータ州北部は結局環境破壊から逃れることは出来なかったようです。
2007年初版。239ページ。